シュタイン

シュタイン

本気の勉強

雷の音と、雨の音がする。落ち着く。
ずっと勝手に休んでいた学校が、チャンスをくれた。
足りない出席日数は、補講授業を受けさせてもらえる。
人生ではじめて、まともに勉強に取り組んでいる気がする。
意外と勉強が楽しくて、いまでは進学を考えてしまっている。
すこし前まで、高校の卒業さえも、危うかったのに。

試験勉強に取り組んでるいまより、数ヶ月前のことだ。
俺はマナミさんの家に居候していた。30半ばのバツイチ女性で、経験値高そうで見た目もそこそこいいんだけど……。家事ができない。住みはじめた頃は、もっと荒れていた。
「コウター。疲れたよー。マッサージしてよう」
帰ってそうそうにこれだ。
マナミさんの源氏名は あやめだ。全然そんなイメージはない。
背中の骨にそってしっかりと押すと、マナミさんは喜んでくれる。手馴れた手つきで、マッサージしていた。
「ねえねえ。高認の勉強、どれくらいした?」
俺は高校に、在籍中らしい。3ヶ月も行ってない。両親は学費を毎月納め続けてるらしい。
「もう、勉強なんかやだよ。なんの役にたつのさ」
「ふーん。まあ、いいけどねー。コウちゃんがどう困ろうと、わたししらなーい」
勉強なんか、億劫だ。

密かに片思いしていた隣のクラスの優奈ちゃんに、告白してから、クラス中から嫌になるくらいに囃し立てられた。
毎日揶揄われた。
ある朝、下駄箱に着いたら、上履きが無くなっていた。
昇降口から、帰って、繁華街を彷徨いていたら、マナミさんに出会った。
マナミさんは行きつけのスナックに連れてってくれて、愚痴をきいてくれた。
理解してもらえた気がした。
「あたしの家ね、掃除できてなくてさー。コウタくん、うちで掃除してくんない?」
必要とされた気がした。

そのまま、家事を手伝う約束で、居着いてしまった。

「実はね、コウちゃんのご両親とは、連絡取ってるんだ。コウちゃんの分の生活費もくれてる。そろそろさ、おかあさんたちと、仲直りしなよ」
家事労働で役に立ってるから置いてもらえてると勘違いしていた。
高校卒業して、本当の意味で必要に思われてみたくなった。

父と、母に、恩返ししたい。
そして、マナミさんにも、立派な姿を見てもらうんだ。

〈 密か 〉
〈 億劫 〉
〈 あやめ 〉

#nina3word #nina3word20170710